事業実施の前に
IT導入補助金の交付を受けるためには、事務局に実績報告をしなければなりません。実績報告とは、実施した事業の内容や支出した経費について、証拠となる各種書類を添えて補助金事務局に報告する手続きであり、正しい手順で事業が実施されていないと、交付が認められなくなる可能性があります。
ここでいう「事業」とはIT導入支援事業者と補助事業者とで行われている一連の作業です。具体的には発注・契約・納品・請求・支払いという一連のプロセスだと考えてください。事業実施期間中、このプロセスの順番が前後することがないよう注意しましょう。事業完了後にすべてのITツールの利用・運用が開始されていることも必須になります。
また、交付決定時に導入するITツールは指定されています。指定のツールを導入した際の経費は補助対象外となるため注意してください。また、事業と直接関連のないソフトウェアの導入費用やオプション利用など経費も補助対象外となります。
事業実施や実績報告の手続きの際には、交付決定通知書および確定通知書を作成する必要があります。いずれもIT導入補助金専用サイトの申請マイページからダウンロードできます。PDFファイルでダウンロードできるので、紛失することがないようしっかり保管してください。
支出した経費の支払いについて
補助事業者がIT導入支援事業者にITツールの代金を支払う際の方法も定められています。決められた手順に従って支払うように注意してください。支払い方法は、銀行振込もしくはクレジットカード決済のいずれかに限定されます。それぞれの支払い方法について、注意事項を見ていきましょう。
銀行振込の注意事項
銀行振込を選択するのであれば、法人名義の口座で手続きしてください。代表者の個人名義からの振込は認められていません。ただし、個人事業主であれば、個人名義の口座で手続きを行っても問題ありません。また、口座から口座への振込しか認められていません。例えば、ATMなどで口座から現金を一旦引き出し、そのお金を相手の口座に振り込む方法はNGです。
銀行振込は、何度かに分けて代金を支払っても問題ありません。しかし、すべての手続きが事業実施期間内に完了している必要があります。銀行振込の際、振込手数料が発生することもあるでしょう。振込手数料をIT導入支援事業者が負担すれば経費として認められますが、請求書に明示していなければ、経費として認められないので注意してください。
クレジットカード払いの注意事項
クレジットカード払いの場合、法人名義の口座で決済されるカードで支払ってください。個人口座とひも付いているカードでの支払いは補助対象外になります。ただし、こちらも個人事業主であれば、自分名義のクレジットカードならば問題ありません。また、決済代行サービスなど、第三者が決済するサービスを利用すると補助対象外になってしまうので、こちらも併せて注意しましょう。なお、クレジットカード決済で認められるのは1回払いのみです。
ハードウェアの導入時の注意点
IT導入補助金事業を実施する際に、ハードウェアを導入することもあるでしょう。補助対象経費になるのは、カテゴリー1に該当するソフトウェアと合わせて導入する場合に限ります。カテゴリー1とは、会計・受発注・決済に関するソフトウェアです。これらに関連がないソフトウェアを導入すると、ハードウェアを導入しても補助対象経費として認められません。
導入した機器は、補助事業のために購入したことがわかるように、シールやラベルを貼付しておくことが必要です。補助事業で導入した機器とそれ以外の機器を明確に見分けられるようにする意図があります。シールやラベルの書式に特別決まりはありません。IT導入補助金で導入した機器であることがわかれば大丈夫です。ただし、ラベルは常に見える位置に貼り付けてください。表に貼るのが望ましいですが、難しい場合には裏に貼っても問題ありません。
また、書式は自由であすが、設置した状態で文字が認識できる程度のサイズで表記するよう心がけてください。本体だけでなく、付属品にも貼付するのが原則ですが、難しい場合は無理に貼付する必要はありません。その代わり、管理簿などで対象製品であることが確認できるように管理してください。複数のハードウェアを導入した場合には、ナンバリングするなどして、個別管理を徹底しましょう。
ハードウェアは、いくつかのカテゴリーに分類されます。その中でも「カテゴリー8」に該当する機器の導入時に補助対象になる経費だけを報告することになります。「カテゴリー8」のツールは、事前にツール登録が行われていないからです。具体的には、パソコンやタブレット端末、プリンター、スキャナなどが該当します。
インボイス枠におけるECサイト制作について
IT導入補助金のインボイス枠で交付決定を受けて、ECサイトを制作する場合、「電子決済機能の実装」「SSL(HTTPS)通信の導入」「納品が完全に完了したのちの実績報告」「交付が決定し、契約後に制作もしくは着手していること」という4つの要件をすべて満たす必要があります。
なお、SSLとは「Secure Sockets Layer」の略語であり、インボイス枠の条件下におけるSSLとは、暗号化(HTTPS)通信のことです。従来のHTTPと比較してセキュリティ性の高い通信をECサイトに実装する技術と言えます。
私たちがホームページを閲覧する際には、サーバーとデータのやり取りをしています。しかし、従来の手法であれば、第三者にやり取りするデータを見られてしまう可能性があります。しかし、SSLはやり取りされるデータを暗号化する上、暗号を解くカギは送信者と受信者しか持っていません。つまり、第三者が不正にデータを手に入れたとしても、内容を解読されることはありません。
ECサイトの場合、顧客は注文時に氏名、電話番号、メールアドレスといった個人情報を入力します。クレジットカード決済を希望する場合には、カード情報も入力しなければなりません。これを第三者が不正に入手すれば、顧客に多大な被害を与えかねません。補助金導入のためだけではなく、顧客の個人情報保護のためにも、ECサイトを制作するときは、SSL導入が必須と考えてください。
<br> 以上、IT導入補助金の事業実施について解説しました。無事に補助金を受け取るためには、事業実施中にも、様々なことに注意しなければいけないとお分かりいただけたのではないでしょうか。「交付決定を受けたら一安心」ではなく、「交付決定を受けてから本番」と考えるべきです。事業完了後にミスや不備が発覚し、補助金が交付されなくなる最悪の事態を避けるためにも、慎重に事業を進めていきましょう。