小規模事業者持続化補助金の申請枠

令和5年度補正予算案 環境省が描く脱炭素社会への道筋
この記事の目次

通常枠と特別枠

小規模事業者持続化補助金には、第15回公募(2024年3月14日締切)の時点で、通常枠・賃金引上げ枠・卒業枠・創業枠・後継者支援枠という5つの申請枠が設けられています。通常枠を除く4つの枠は「特別枠」とも呼ばれており、その名称の通り、通常枠よりも補助上限額が大幅に増額されているのが特徴です。特別枠に申請するには、通常枠にはない追加の申請要件があり、それをクリアする必要があるため、誰でも申請できるというわけではありません。ここからは、通常枠および特別枠の申請要件、補助率・補助上限額、その他特記事項を順に紹介していきましょう。

通常枠

まずは、通常枠です。「通常」というだけあって、特別な申請要件は設定されておらず、基本的な要件さえ満たしていれば、すべての事業者が申請可能です。ただ、補助上限額が50万円と低めの設定になっており、100万円以上の投資を計画している事業者の方には、少し物足りない枠かもしれません。通常枠の概要は下表の通りです。

概要
申請要件 《基本要件》<br>・資本金又は出資金が5億円以上の法人に直接又は間接に100%株式保有されていない<br>・直近過去3年分の各年または各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超えていない<br>・商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいること<br>・持続化補助金(一般型、コロナ特別対応型、低感染リスク型ビジネス枠)で採択を受けて、補助事業を行った場合、「小規模事業者持続化補助金に係る事業効果及び賃金引上げ等状況・報告書」を原則本補助金の申請までに受領している<br>・卒業枠で採択され事業を実施した事業者ではないこと
補助率 補助額 ・補助率(支出した補助対象経費のうち何割が補助されるか):2/3<br>・補助額(補助される経費の上限額):50万円

特別枠① 賃金引上げ枠

特別枠1つ目は賃金引上げ枠です。ニュースでも度々報じられている通り、国・政府は労働者の賃上げを強く推進しようとしています。その姿勢は補助金にも表れており、賃上げを条件に補助額が優遇されるケースが増えています。賃金引上げ枠もその一環であり、従業員の賃上げを実施することを条件に、通常枠よりも補助上限額が増額されます。賃金引上げ枠の概要は下表の通りです。

概要
申請要件 ・通常枠で紹介した《基本要件》を満たしていること<br>・補助事業の終了時点において、事業場内最低賃金が申請時の地域別最低賃金より+50円以上であること<br>・すでに事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+50円以上である場合は、現在支給している事業場内最低賃金より+50円以上とすること<br>・この要件を満たさない場合は、補助金の交付は行われない
補助率 補助額 ・補助率(支出した補助対象経費のうち何割が補助されるか):2/3<br>・補助額(補助される経費の上限額):200万円・赤字事業者は補助率が3/4に引き上げられる

赤字事業者とは

赤字事業者とは、直近1期、または直近1年間の課税所得金額が「0」である事業者です。課税所得金額は、法人の場合、直近1期分の「法人税申告書」別表一と別表四「所得金額又は欠損金額」欄の金額部分を確認してください。個人事業主の場合は、直近1年間の「所得税及び復興特別所得税」の「確定申告書」第一表「課税される所得金額」欄に記載されている金額が課税所得金額です。赤字事業者の補助率は3/4にアップしますが、補助額の上限は200万円と変更はありません。

近年の最低賃金引上げ状況

厚生労働省に掲載されている地域別最低賃金の全国一覧(過去5年分)によると、東京都の最低賃金は、令和元年と2年は据置でしたが、その後は約30〜60円のペースで増加しています。賃上げは人件費の面でも負担になりますが、小規模事業者持続化補助金を申請する際に賃上げを見送っても、いずれは賃上げしなくてはならないと考えれば、申請時に賃上げしてしまう方が賢明という考え方もできます。

卒業枠

特別枠2つ目は卒業枠です。卒業枠に申請する要件は、小規模事業者として定義される従業員数を超えて、雇用を拡大すること。つまり、小規模事業者からの「卒業」を達成することで、通常枠よりも補助上限額を増額しましょうということです。そのため、補助事業終了時点で規定の従業員数を雇用できていなかった場合には、補助金は交付されません。小規模事業者持続化補助金の事業実施期間は7カ月程度。その間に採用できる見込みがなければ、他の申請枠にした方が無難かもしれません。卒業枠の概要は下表の通りです。

申請要件 補助事業の終了時点において、以下の通り常時使用する従業員の数を増やし、小規模事業者の従業員数を超えて規模を拡大すること<br>・商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く):6人以上<br>・宿泊業・娯楽業:20人以上<br>・製造業・その他:20人以上
補助率 補助額 ・補助率(支出した補助対象経費のうち何割が補助されるか):2/3<br>・補助額(補助される経費の上限額):200万円

創業枠

特別枠3つ目は創業枠です。新たに創業(起業・開業)した事業者を支援する目的で設けられた申請枠であり、通常枠よりも補助上限額が増額されます。とはいえ、創業間もない事業者なら誰でも申請できるというわけではありません。創業枠の概要は下表の通りです。

概要
申請要件 ・公募申請締切時から過去3か年の間に、開業していること(法人登記、開業届提出など)<br>・公募申請締切時から過去3か年の間に、産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定市区町村と連携した認定連携創業支援等事業者が実施した特定創業支援等事業の支援を受けていること
補助率 補助額 ・補助率(支出した補助対象経費のうち何割が補助されるか):2/3<br>・補助額(補助される経費の上限額):200万円

特定創業支援等事業とは

創業枠への申請を検討するにあたって、最も「?」なのは、「特定創業支援等事業」とは何かということだと思います。特定創業支援等事業とは、市区町村などの自治体や自治体の連携した商工会議所、金融機関などが実施している創業支援サービスであり、最も多いのは、創業セミナーです。

創業セミナーは、年に1回ないし複数回実施されます。定員20~30名程度に定められていることが多いため、受講希望者は事前申込が必須です。1回の創業セミナーにおける開講日は1~5日程度であり、1回の時間は大体2~3時間程度。中小企業診断士などの専門家が講師を務め、事業計画作成、融資をはじめとする資金調達、集客・マーケティング、人材採用、税金・社会保険など、今後事業を営んでいく上で欠かせないテーマの講義や他の参加者とのグループワークなどが実施されます。料金は無料、または非常に低価格に設定され、金銭的な負担は大きくありません。

創業ノウハウを学べる上、セミナーを修了するだけで創業枠の申請要件を満たせるわけですから、非常に有り難い制度だと言えるでしょう。しかし、「1回でも欠席したら、修了とは認めません」というケースもありますので、参加する際は皆勤できるように頑張りましょう。

後継者支援枠

特別枠4つ目は後継者支援枠です。文字通り、二代目、三代目として、これから事業承継を行う事業者を対象とした枠であり、通常枠よりも補助上限額が増額されます。これは最も申請要件をクリアするのが難しいのではないでしょうか。後継者支援枠の概要は下表の通りです。

概要
申請要件 アトツギ甲子園においてファイナリスト、準ファイナリストに選出されていること
補助率 補助額 ・補助率(支出した補助対象経費のうち何割が補助されるか):2/3<br>・補助額(補助される経費の上限額):200万円

アトツギ甲子園とは

アトツギ甲子園とは、中小企業庁が主催する全国各地の中小企業・小規模事業者の後継者が既存の経営資源を活かした新規事業のアイデアを競うイベントです。後継者支援枠の申請要件をクリアするには、このイベントでファイナリスト、準ファイナリストに選出されなければなりません。ちなみに、2023年に行われた第3回大会では、全国から192名のエントリーがあり、西日本・中日本・東日本各ブロックの上位5名が決勝大会に進出しています。ファイナリスト、準ファイナリストになるには、ここからさらに勝ち上がる必要がありますので、非常にハードルが高いと言えるでしょう。

インボイス特例

ここまで解説してきた通常枠・特別枠には、いずれもインボイス特例を適用することができます。インボイス特例とは、免税事業者だった事業者がインボイス登録を行い、適格請求書発行事業者になることで、補助上限額を一律50万円上乗せされるという特例のこと。つまり、通常枠では補助上限額が100万円、特別枠では補助上限額が250万円に増額されるわけです。まだインボイス登録をしていない事業者の方、これからインボイス登録をしようかと検討されている事業の方は、補助上限額増額のため、この機会にインボイス登録を行うのも一つの方法かと思います。ぜひ検討してみてください。

<br> 以上、小規模事業者持続化補助金の申請枠について解説してきました。申請枠ごとに補助率・補助額も変わりますし、事業者によって、申請できる枠もあれば申請できない枠もあります。申請要件を満たさない枠に誤って申請してしまえば、その時点で不採択になってしまうので要注意。また、事業実施期間中に達成しなければいけない要件をクリアできなかった場合には、交付決定通知を受け取っていたとしても、補助金を受け取れなくなってしまうので、こちらも十分注意してください。